日本史日誌

いまは旅行記で精一杯だけど・・・

浅井氏の読み仮名をめぐって〜和名類聚抄・節用集を調べる(後)


そもそも『和名類聚抄』とは何ぞや、というレベルなので、ひとまず「和名類聚抄」で検索してピックアップされたものを片っ端から当たってみることにしました。
まず『和名類聚抄』は平安時代中期成立の百科事典的な漢和辞書とのこと。十巻本と二十巻本の二種類に別れて伝存しており、そのうち二十巻本のみに国郡郷部の記載があります。この国郡郷部に「浅井郡」(近江国)が立項されており、そこにどのような記載がなされているのか、それが今回の調査ポイントとなります。


最初に調べたのは、『和名類聚抄 名古屋市博物館史料叢書二』。名古屋市博物館が所蔵する永禄九年(1566)書写の名古屋市博物館本を原寸大写真版で収録しています。
これには、「浅井郡」に「アサイ」と振り仮名が振られていましたが、傍点などの清濁判別の材料となりそうなものはありませんでした。他の箇所についても調べてみましたが、例えば「足立郡」であれば「アタチ」というように、濁点は全く見られず、傍点も同様。残念ながら判断材料とはなりえず。


次に調べたのは、『和名類聚抄古写本・声点本本文および索引 (1973年)』。これには諸本が収録されており、そのうち二十巻本の国郡部が掲載されているのは高山寺本(天理図書館蔵)と元和古活字本。
しかし両者とも「淺井郡」に対する振り仮名はありません。全体を通して、カタカナによる振り仮名は全く無いようです。ただし、元和古活字本には「阿佐井」と、当て字がされていました。「佐」を「ザ」と読む事例を知りませんし、他にも「坂田郡」を「佐加太」、「更級郡」を「佐良志奈」、「小県郡」を「知比佐加多」、「寒川郡」を「佐無加波」などの用例もあって、清音で決まりかと思ったのですが、喜びもつかの間、「神埼郡」を「加無佐岐」としているのを見つけ、敢えなく泡と消えゆきました。結局、当て字も清音に合わせているようです。これでは清濁の区別は付きません。


というわけで、今回の調査結果は以上のとおりです。残念ながら、何ら成果はあがりませんでした。
引き続きこの問題は追っていきたいと思いますが、手がかりを失ってしまいましたので、何かご存じの方はお知らせいただけますよう何とぞお願い申し上げますm(__)m



ちなみに節用集にも当たってみました。
黒本本には記載がないこと、易林本には「アザイ」とあることを確認*1。ただし、正確には「ア七゛イ」。なんでも「サ」の古体が「七」(というかもっと正確には漢数字「七」に似た文字なんですけど)なのだそうな。

*1:「朝倉」が「アザクラ」であることも確認