日本史日誌

いまは旅行記で精一杯だけど・・・

壬申の乱/倉本一宏/吉川弘文館

壬申の乱 (戦争の日本史)

壬申の乱 (戦争の日本史)

「戦争の日本史」シリーズの第2巻。
乱に至る契機や経緯、乱の過程など、通説に対して疑問を投げかけながら、新たな「壬申の乱」像をつむぎ出していて、興味深い一冊です。
ただ、天智天皇天武天皇の兄弟関係の問題に触れていない点と、大海人皇子の吉野隠退の原因・理由がいまひとつ説得力に欠ける点に不満が残る。大海人の即位が既定路線だとするならば(中継ぎという条件が足枷になっているにしろ)、それを辞しての都落ちが積極的な要因によるものだったとは考えがたく、わざわざ挙兵というリスクを伴う賭けに出たということは、何らかの負の要素があったと考えるのが自然だろう。本書ではそれを天武の後継者問題に求めているのだが*1、果たしてそれが挙兵のリスクに見合ったものといえるだろうか?
また、挙兵するための隠退であったなら、何故その行き先が挙兵の地盤となった東国(美濃・尾張)ではなく吉野になったのか、という点についても検討しなければならないだろう。


まあ著者も記されているように、壬申の乱については、まだまだ検討の余地がありそうだ。

*1:そのため草壁皇子皇位に就けたい大海人妃の讃良皇女(持統天皇)が首謀者であると結論づけているが、大海人が危険を冒してその案にのる必要性があるとは思えない。大海人が讃良の操り人形ということであれば別だが、そういうワケでもない。