鳶魚で江戸を読む/山本博文/中公文庫
- 作者: 山本博文
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
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- 1、江戸学の祖三田村鳶魚
- 鳶魚の人と学問
- 鳶魚の歴史学
- 2、江戸学の成果と近世史研究
- 文明批判としての江戸学
- 鳶魚お気に入りの人物
- 将軍に子供が多いと幕府が倒れる
- 鳶魚の恋愛観
- 親兄弟を助けるためのキャリア・ウーマン
- 鳶魚の吉原研究
- 時代の移り変わりと泥坊
- 鳶魚の江戸趣味批判
- 分を知る侠客、お上の権威で威張る目明し
- 貧富を均一化させる江戸のシステム
- 側用人をめぐる言説
- 江戸の通貨と金融業者としての札差
『大奥〜華の乱〜』の設定は、三田村鳶魚の著作を参照しているのではないかと思われるわけですが、
そもそも三田村鳶魚についてはよく知らないこともあって、ここにきて俄かに彼への興味が湧いてきたのであります。そこにタイミングよく出版されたのが本書で、一も二もなく購入したというわけ。
これまでの歴史学界においては、やはり鳶魚の業績は低くみられていたようで、1章ではそのあたりのことについても考察されています。
鳶魚は、大名の研究をするにしても、政治制度などにはあまり関心がなく、閨閥やそれに起因する御家騒動を好んで書いている。このような点が、構造論研究を重んじた戦後の近世史において、特に藩政史の研究者から軽んじられた理由かと思われる。
つまり、閨閥や御家騒動といったものは、個別的な事情が大きく影響し、歴史的な理論付けがなかなかできにくい性格のテーマである。それを個別に踏み込むことでよしとする手法は、アカデミズムから見ると講談的なものに見えたのであろう。
まず第一点は、その研究テーマの問題を挙げています。彼が主にテーマとしてものは、江戸の風俗・社会・民衆史、そして御家騒動を中心とするゴシップネタ。確かに個々のゴシップネタだけを見れば通俗的な好事家と見られても仕方ないところもあるかも。私はそういうのが好きなんですけど。(^^;
それでも最近は御家騒動を体系的に捉えようとする向きがあるので、こちらは今後の研究の発展が期待できるんじゃないかと思っています。
→御家騒動/福田千鶴/中公新書 - 日本史日誌
→お家相続/大森映子/角川選書 - 日本史日誌
この分野の研究で必要なはずの古文書をあまり探索せず、随筆などの少し史料的価値の下がるものを活用しているためであろう。大名家の史料が公開されていない当時にあっては無理からぬところであるが、現在から見れば物足りない。
二点目は、活用している史料の問題。つか、現在でも一般人では閲覧の難しい史料なんて山ほどあるんじゃないだろうか。まあ、在野でもコネ次第でどうにかなるのかもしれませんが。
出典が掲げられていないものも多く、これが鳶魚の評価を下げているところがある。
しかし、読んでみると、総ての出典を明記しているわけではないが、鳶魚とて意識して出典をあげようとしている。ただし、その史料が何に収録されたものか、あるいはどこに所蔵されているものかについての注記がないため、探せないのである。
最後は、典拠記載の問題。これが一番重要な問題のように思います。典拠が分からないと研究の発展に繋げることも出来ませんしね。そこで断絶してしまう。先日、鳶魚以降の江戸学研究の発展が感じられないなどと漠然とした印象で語ってしまいましたが、意外と当たっていたのかもしれない。