日本史日誌

いまは旅行記で精一杯だけど・・・

天文期六角氏の系譜の研究/佐々木哲/戦国史研究(30号)

以前読んだ六角氏の系譜に関する論文に参考文献として挙げられていて、それ以来気になっていた論文。先日ようやく入手して読みました。


まず前提として、六角氏の系譜問題があります。近江守護六角高頼には長男氏綱と次男定頼がいて、系図などでは氏綱の系統(氏綱―義実―義秀)が惣領で、定頼の系統(定頼―義賢―義弼)は後見であるとされているが、氏綱の系統は系図作成段階で捏造されたものとするのが従来の説であり、細かい話は抜きにしてここまでは私も把握はしていました。
ところが近年、それに反して氏綱の系統が存在し、かつ六角氏惣領であったとする見解を目にするようになりましたので、その端緒となった本論文を読んでみようと思ったわけであります。


さて、本論文の内容は多岐に渡っていますが、その要旨のキモとなっているのは同時代史料に見える「江州宰相」が系図類でいうところの「六角義実」に比定するところにあります。
その根拠として、「江州宰相」が幕府有力者であること*1足利将軍家と近しい間柄とみられること*2、さらに「江州宰相」の名称が参議兼近江守であったと伝わる六角義実に適合すること、などを挙げられていて、その可能性は非常に高いように感じます。
ただ、いずれも状況証拠からの推測によるものなので一抹の不安もあるのですが、杞憂でしょうか。他の学者さんの意見はどうなのか、批判はないのか。それから、当説に基づくならば戦国大名としての六角氏の研究にも大きな影響があると思われますが、その辺はどうなのか。色々気になってくる。


ちなみに、著者佐々木氏のブログに内容がまとめられています。
http://blog.sasakitoru.com/200503/article_2.html

*1:当時、六角氏は幕府の庇護者。

*2:系図類によれば、六角義実は足利義晴の猶子となったという。