日本史日誌

いまは旅行記で精一杯だけど・・・

氷川清話/江藤淳・松浦玲 編/講談社学術文庫

氷川清話 (講談社学術文庫)

氷川清話 (講談社学術文庫)

江戸っ子べらんめえ調の人物批評が痛快な勝海舟の談話集。
大半が自慢話であり、法螺や脚色が多分に混じっているように思われるのだが、そうかといって簡単に否定して切り捨てるわけにもいかないのが面白いところではある。本書にはひとつひとつのエピソードごとに注釈が付いているのだが、さらに細かく詳しく検証するのも面白そうだ。ただ、自分でやるのは大変なので、誰かやり(やって)ませんかねぇ?(^^;


面白いといえば、幕末のエピソードに関しては徳川幕府を批判しているのに対し、明治維新後の話になると今度は徳川幕府を持ち上げて政府を批判する、というのがひとつの図式となっているのも面白い。
まあ、何事にも長所短所があるということなんでしょうけどねー。


ところで、『氷川清話』というのは随分複雑な経緯をたどったようで。本書の冒頭「学術文庫版刊行に当たって」及び巻末の「解題」にてその辺りの事情が記されています。
もともとは吉本襄が、勝海舟より聞き取った談話と新聞や雑誌に発表された談話を寄せ集めて*1編集したそうなのですが、その際に自己流にリライトされているという。しかもそのリライトが原文の内容を損ねぬ程度のものではなく、大幅な作為が行われている。なおかつ、この吉本リライト版が長いこと流布してきたというのですから驚きだ。編纂物の取り扱いには気を付けないといけないということを、まざまざと思い知らされる。
で、この学術文庫版ではそれを改め、有り難いことにひとつひとつ注釈を付けてくれている。ただ、原史料はどの程度残っていたのだろう? メディアに発表された談話は記録としてかなり残っていそうな気がするけど、吉本襄が聞き取った談話はどうなんだろう?
いやはや次から次へと興味が湧いてきて尽きないけど、そうかといって熱心に調査するというところまではなかなかね。

*1:聞き取りより、メディア媒体の寄せ集めの方が多いというのに驚いた。