日本史日誌

いまは旅行記で精一杯だけど・・・

清盛以前/高橋昌明/文理閣

清盛以前―伊勢平氏の興隆

清盛以前―伊勢平氏の興隆


六章における位階昇進状況をデータ化しての考察はなかなか興味深いものでした。
あと何と言っても、新版で追加された付論「重盛の母」がスリリングで興味をひかれた。平清盛の最初の妻で平重盛の母である女性は下級官人高階基章の娘で、既に諸大夫層に食い込んでいる平忠盛の長子で出世街道をひた走っている清盛とは釣り合いが取れない。が、そこに高階基章の娘が前関白藤原忠実の密通の子の可能性があるという指摘。忠実の子・藤原頼長の日記『台記』によれば高階基章の妻と忠実の間に産まれた娘*1が亡くなったという記述があり、これが清盛の妻を指すのではないかと。白河院落胤かもしれない清盛と、前関白の隠し子による婚姻だとすれば著者のいうようにかなり「スキャンダラス」だ。


そして終章であるが、これがまた興味深い。保元の乱の3年前に忠盛は死去し、跡を継いだ平清盛保元の乱天皇方に属して勝利している。しかし忠盛が生きていれば異なる選択肢を選んだかもしれないという。これは全く知らなかったのだが、忠盛の後妻池禅尼崇徳院第一皇子重仁親王の乳母であり、その関係から崇徳方に付いた可能性、あるいは源氏同様に親子分裂の可能性を示唆している。

こうしてその後の歴史の展開は、著しく実際のそれと異なったものになった蓋然性がある。存在しなかったかも知れない平氏政権、もっと長続きしたかも知れない平安時代などに思いをよせる時、忠盛という一個人の死の時期の微妙さに、特別の興味を感じないわけにはゆかない

まったくもって同意です。これだから歴史は面白い。
全般的に好奇心をくすぐる本書であるが、清盛の白河落胤説を前提としているのにだけは違和感を感じた。明日からは人物叢書の『平清盛 (人物叢書)』を読む予定なので、こちらではどのような扱いになっているのか楽しみであります。

*1:頼長にとっては姉妹